2025年4月14日

他人になりすまして、ネットで第三者を罵倒したらどうなる?

こんにちは。株式会社マモル代表のくまゆうこです。

SNS上で他人になりすまし、第三者を罵倒する行為が深刻な法的問題として注目されています。2024年12月、最高裁は、なりすまし投稿者の特定に向け、投稿後のログイン情報の開示を認める初判断を示しました

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また、過去には、なりすましによる名誉毀損で130万円の損害賠償が命じられたケースもあります 。​軽い気持ちで行った行為が、刑事・民事の両面で重大な責任を問われる可能性があることを認識する必要があります。

他人になりすまして、ネットで第三者を罵倒したらどうなる?

他人にみだりに公開されたくない私生活上の個人に関する情報について、公開されない権利をプライバシー権といい、これが侵害される行為をプライバシー侵害といいます。

私生活における情報のうち、どのような情報がプライバシー情報として保護の対象となるのか、どのような行為がプライバシー侵害にあたるのかについて、事例ごとに解説します。

※以下の事例は、過去の裁判例の事案に基づき作成されたものですが、プライバシー侵害の該当性は、細かな事実関係や社会情勢等によって判断が変わり得るため、同様に思えるような事例であってもわずかな事実関係の違いによって判断が異なり得ることに十分ご注意ください。

プライバシーの侵害は成立する?具体的な事例で確認

Q.自分の名前を検索すると、過去の逮捕報道のウェブサイトの表題と抜粋が複数表示されるが、検索エンジンサイトに対するこの検索結果の削除の請求は認められるか。

A.認められない可能性が高いといえます

私生活において他人にみだりに知られたくない個人に関する情報は、プライバシー情報として法的に保護の対象となります。

しかし、プライバシー情報であっても、これを公開することに公益的必要性があるといえる場合には、公開する行為がプライバシー侵害にあたらない可能性があるといえるでしょう。

具体的には、

・情報の性質および内容

・情報が伝達される範囲と具体的被害の程度

・対象者の社会的地位や影響力

・記事の目的や意義

・記事が掲載された時の社会的状況とその後の変化

・事実を記載する必要性など

本件のような前科や前歴など犯罪歴に関する情報は、プライバシー情報にあたることが多いです。

しかし、一方で、これらの情報は、比較的長期間にわたって、公共の利害に関する事項であると判断される傾向にあり、情報を公開されない利益が公開する理由に優越するとはいえないと判断される可能性が高いといえます。

そのため、犯罪歴に関する情報を公開することは、プライバシー侵害にあたらないと判断される可能性が高いのです。

実際に、自分の氏名と居住する県名を条件として検索すると、児童買春をしたとの理由で逮捕されて罰金処分を受けたという過去の情報を記載したウェブサイトの表題と抜粋が検索結果に表示されるとして、検索エンジンサイトに対して当該検索結果の削除を求める仮処分命令の申立てがなされた事案が過去にありました。

この事案について、最高裁は、上記と同趣旨の理由で削除の申立てを却下したのです。

Q.検索エンジンサイトのストリートビューに自分のマンションのベランダに干していた洗濯物が写っていた。このような写真を撮影・公表することは、プライバシー侵害にあたらないか。

A.撮影行為・公表行為ともにプライバシー侵害とはならない可能性が高いですが、撮影方法や公表の方法によっては、プライバシー侵害となることもあります。

同様の事案について、福岡高裁は、容貌・姿態以外の私的事項に対する撮影も、プライバシーを侵害する行為として法的な保護の対象となるとしつつ、撮影行為が違法となるかどうかは、被撮影者の私生活上の平穏の利益の侵害が、社会生活上受忍限度を超えるものといえるかどうかによって判断すべきとしました。

その上で、撮影された画像は、居室やベランダの様子を撮影しようとして写ったものではなく、公道から周囲全体を撮影した際に写り込んだものであること、洗濯物については判然としない(はっきりしない)写り方であること等を理由として、侵害の程度が受忍限度の範囲内であり、プライバシー侵害にあたらないと判断したのです。

また、この事案について、福岡高裁は、当該画像を公表する行為に関しては、画像に不当に注意を向けさせるような方法で公表されたものではなく、公表された画像からは、被撮影者の利益の侵害があったとは認められないとして、プライバシー侵害にあたらないと判断しました。

他方で、このような考え方を前提とすれば、外部から撮影した写真であっても、その撮影方法や公表方法に問題があるような場合は、プライバシー侵害となる可能性があると考えられます。

プライバシーの情報は多様である一方、侵害が認められるハードルは高い

Q.他者が、自分の顔写真やアカウント名を使用して、自分になりすまして、インターネットの掲示板に第三者を罵倒するような投稿をしてい

A.プライバシーの侵害ではなく、名誉権侵害や肖像権侵害にあたるとして、損害賠償請求が認められる可能性があります。

同様の事案について、大阪地裁は、顔写真やアカウント名を使用して、なりすましをして第三者を罵倒するような投稿をした行為に関して、そのなりすまされた人が、他者を根拠なく侮辱や罵倒して掲示板の場を乱す人間であるかのような誤解を与えるものであるとして、なりすまし行為が名誉権の侵害にあたると判断しました。

また、当該投稿につき他人の顔写真を使用したことについて、その目的に正当性が認められないことや、併せてその顔を卑下するような投稿をしたことに関して、肖像権に結び付けられた利益のうち名誉感情に関する利益を侵害したものといえるとして、「社会生活上の受忍限度を超える」ものであると判断し、肖像権の侵害があると認められたのです。

他方で、顔写真を無断で公開されない利益については、この事案では、なりすまされた人自身が、その顔写真を自身のプロフィール画像に設定して公開していたこともあり、当該事案では法的に保護されるようなものとはいえないと判断されました。

SNS上のアカウント名やプロフィール写真などは、氏名などとは異なり、その人を象徴する度合いが必ずしも強いとはいえないため、アカウント名等を利用した「なりすまし行為」自体がただちに不法行為となる可能性は必ずしも高くはありません。

しかし、なりすまし行為を行った上で、違法・不当な投稿を行った場合には、名誉権侵害や肖像権侵害にあたるといえるのです。

Q.あるトラブルの相手方を電話で問い詰めている様子を録画して会話内容を録音し、YouTubeで公開したが、通話内容を公開することはプライバシー侵害にあたるか。

A.通話内容のなかにプライバシー情報が含まれていればプライバシー侵害にあたる可能性がありますが、含まれていなければ、通話内容を公開するだけではプライバシー侵害とはならないとの見解があります。

著作権を侵害されたと言って相手方に電話をかけ、電話で相手方を問い詰め、警察に被害届を提出するなどと告げた上で、その通話内容を録画し、インターネット上の動画共有サービスにストリーミング配信した事案が過去にありました。

この事案について、東京地裁は、このような通話内容および相手方の困惑する様子が公開されたことに関しては、プライバシー権が侵害されたとは認められないと判断しました。

もっとも、この事案は、通話内容の中に特段のプライバシー情報が含まれていなかったようなので、通話内容の中にプライバシー情報が含まれている場合は、通話内容を公開する行為がプライバシー侵害にあたる可能性があります。

なお、この事案について、東京地裁は、併せて、動画中において相手方を問い詰める発言は、相手方が著作権を侵害したとの印象を与えるなど相手方の社会的評価を低下させるに足りるものであるとして、動画を配信した行為が名誉毀損の不法行為にあたると判断しています。

プライバシー侵害とはいえないが、名誉毀損行為であると判断された事案なのです。

記事監修

石井法律事務所

弁護士 稲垣 司

※この記事は2022年に監修いただいたものです。

 

 

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