





「マモル」(東京都新宿区)が運営する「マモレポ」は、子どもが学校の内外で体験したいじめ、見聞きして誰かに相談したいこと、悩みなどを、学校や教育委員会に直接送信できるツールです。実際に導入した自治体や学校の事例を知りたいという声に応えて、2021年11月19日、「マモル」のくまゆうこ(隈 有子)代表が大阪府吹田市の市立小・中学校2校を訪ねてインタビュー取材をしました。
吹田市は2020年度末から全国の自治体として初めてGIGAスクール構想と絡めたかたちで「マモレポ」を導入。市内54の小・中学校の児童・生徒約3万人に配備した学習用端末(小学生にはiPad、中学生にはWindowsを貸与)に、「マモレポ」を入れました。
自治体としての導入を決めた背景には、過去に起きた深刻ないじめに、学校が長く気づけなかったというケースがありました。市は2019年6月に「いじめに係る重大事態調査委員会」がまとめた調査報告書を踏まえ「すいたGRE・ENスクールプロジェクト」※をスタート。「マモレポ」導入はそのプロジェクトの一環で、「マモレポ」意外にも全ての小・中学校の学級で行っているいじめ予防授業のほか、いじめ対応支援員やスターター(支援員)の増員、スクールソーシャルワーカー(SSW)の配置時間増など、市全体で取組を進めています。
※GRE・EN の「G」は good(良い)、「RE」は relation(関係・間柄)、「EN」enjoyment(楽しみ・喜び)の頭文字で、学校生活で子どもたちが友達や先生、地域住民と良い関係を築き、楽しみや喜びを感じながら過ごせる環境を整えることを目指すプジェクト
中学校導入例
——「マモレポ」を導入した経緯は教員間で共有されていますか?
「すいたGRE・EN(グリーン)スクールプロジェクト」の資料提供をしています。
——「マモレポ」が導入されることになった時に、どのように思われましたか?
学習用端末とほぼ同時に入ってきたので、先生方はまず、子どもたちに端末をどのように使ってもらうかが大きな課題でした。並行して入ってきた「マモレポ」をどこまで運用できるかは不安がありました。
学習用端末がハード的にうまく回るかどうかも、大きな課題でしたものね。
子どもが相談したいタイミングで連絡できる
——「マモレポ」への期待はありましたか?
子どもからの通報は教育委員会に行く分と学校に行く分とに分かれています。本校でも相談がありましたが、相談を受けた時に、どう対応していけばいいかというところも十分把握できていなかったので、すぐに対応していいものか、やはり委員会からの指示を受けて動いた方がいいのか、戸惑いました。
子どもが「相談したいとき」をクリックすると、「あなたの学校に相談」「教育委員会に相談」を選べる。「学校に相談」をクリックすると、相談内容は学校で開くことができるが、「何か相談が来ている」こと自体は市教委の担当者やシステムの管理を担っている「マモル」にも表示される。
—— 具体的には、どんな対応をされましたか?
教育委員会に相談したところ「これは学校に来ているものだから学校で」ということで、担任と共有して、その日のうちに生徒と話をしてもらい、早いスピードで対応することができました。通報した生徒は「こういうことがあったと知っておいてほしかった」と言っていたと担任から報告を受けました。
—— エスカレートする前の「小さな声を拾っていきたい」というのが「マモレポ」のコンセプトです。相談があって、学校側に変化はありましたか?
すごくシンプルなシステムだとわかりました。普段は学期に1回の「学校生活アンケート」を実施していますが、「マモレポ」が導入されたことで、子どもたちが訴えたいタイミングで声を拾うことができます。チェック漏れさえなければ、すぐに対応ができると感じました。
——「マモレポ」導入で先生方のご負担は増しましたか?
学校には3つのIDが割り振られています。負担は増していませんが、どのように運用していくかは学校で考えていかなくてはなりません。
—— 生徒たちは学習用端末を持ち帰っていますか?
11月初めまでは「コロナでもし臨時休校が起こったら」と考えて全員に持ち帰らせていたのですが、「重いので置いて帰りたい」という子どもたちの意見もあり、必ずしも、持ち帰らなくてもよいことにしました。持ち帰った時には目印を入れて、誰が持ち帰っているかはわかるようにしています。家でもできるので「マモレポ」ってこんなものだよと、繰り返し周知するといいと思っています。
「学校生活アンケート」や「いじめ予防授業」と連携
まずは子どもたちに、どうやって周知していくか。お話している中でイメージが浮かんだのは、毎学期行っている「学校生活アンケート」の中で「マモレポもあるよ」と伝えれば、アンケートに書けないこともマモレポでまた相談できるとアナウンスできるのではと思いました。先生方にも、もっと知っていってもらわないといけませんね。
—— 先生の個人的なご意見として、いじめの早期発見についてどうお考えですか?
早期発見を望んでいますが、子どもたちが「今の段階で報告すべきか」と躊躇しているのではないかと思います。こちらもアンテナを張ってはいるのですが、伝わってくるのは、子どもが抱えきれなくなってから知ることが多いと思います。
—— いじめの芽が出ても、子どもは一旦は自分で頑張って、それでも我慢できない時に言ってくるということですね。学校の雰囲気として、直接、先生への相談は多いですか?
子どもたちの中にも「まずは先生に」と、直接の相談は結構あります。「こんなことで嫌でした」と何かあったら言ってきます。保護者が直接来られることもあります。それで、「マモレポ」の通報が1 件で収まっているのではないかと思います。
1学期までは見守りも含めて6件程度。2学期も、いじめの委員会を開いたことが2、3回。すべて解決に向かいました。
—— 子どもが自発的に相談したい時にできるのが「マモレポ」のいいところです。今はいじめだけでなく、ヤングケアラーの問題もあります。家族を介護していたり、きょうだいに障がい者がいるなどの子どもたちを支える仕組みにも役立てたらと思います。
虐待も含めて家庭の状況はいろいろあります。情報が上がってくる仕組みになっているので、思った以上に学校は情報をつかんでいます。本校では、虐待や不登校等、支援が必要な子どもたちに対して「教育相談」というくくりで月1回は全学年で共有していますが、そこでの「マモレポ」の活用についても、検討していけたらと思います。
基本的に情報は直接つかむことが大事だと思っていますが、担任との関係などもあり、うまくいかないこともあります。そこで「マモレポ」は、それを補完するものとして、相談したい子どもたちには有効なツールだと思っています。市内(の小・中学校)全体で「マモレポ」の相談は、どのくらい上がってきていますか?
学校と教育委員会を合わせて35件程度です。(令和3年11月17日時点)予想よりも少ないです。一つは、もう少し周知していかないといけないということですが、もう一つは、いじめの取組を進めている中で、先生方が早めに見つけてくれていることがあると思います。
というのは、ここ2年程度で、いじめの認知件数が上がっています。例えば、小学校では、H30年度で230件程度だったものがH31年度では610件程度と一気に倍以上になったのも、早期に見つけて、丁寧に対応しているからこそ。全体としてはいい流れにあると思います。認知件数の上昇は吹田市だけではなく全国的なもので、文部科学省の数字からも読み取れます。
来年度に向けて「マモレポ」の認知をあげていくことが課題かなと思っています。周知することが大切です。「いじめ予防授業」等を継続して何度も行うことが大切だと考えています。教育委員会でもリーフレットや「学校だより」などで使える汎用性のあるお知らせ記事を作成して配付してもらえれば、各校で利用できると思います。
—— いじめが起きてからではなく、何もない時に知っておくことが大事ですよね。
いじめ予防授業等の中で「マモレポ」を紹介していく取組は、今後、教育委員会においてもさらに進めていきたいと考えています。
—— ありがとうございました。