未来を生きる存在「子ども」を守るということ(前編)

杉森伸吉先生×株式会社マモル 代表 くまゆうこ

すべての子どもたちに、笑顔を。をミッションに株式会社マモルは、いじめの予兆を検知し、未然に防ぎ、いじめで悩む子がいなくなる社会をめざしています。マモル代表のくまゆうこが、識者と対談し、さまざまな角度からいじめについて深掘りしていきます。

杉森 伸吉(すぎもり・しんきち)

東京学芸大学教授(社会心理学)。東京学芸大学附属大泉小学校校長(併任)。個人と集団の関係をめぐる文化社会心理学の観点から、集団心理学(チームワーク力の測定、裁判員制度の心理学、体験活動の効果)、リスク心理学などの研究を行っている。野外文化教育学会常任理事、社団法人青少年交友協会理事、財団法人日本アウトワードバウンド協会評議員、NPO法人学芸大こども未来研究所理事、社団法人教育支援人材認証協会認証評価委員会委員長など。

教師には「対応力」が必要

—— 杉森先生、今日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございます。まず自己紹介をお願いしてもよろしいですか?

現在は東京学芸大学附属大泉小学校で校長をつとめております。また、東京学芸大学において教育心理学、社会心理学や集団心理学を研究しており、教授として卒業論文、修士論文、博士論文などの指導も行っています。

—— 杉森先生は小学校の校長先生であり、同時に将来の教師を育てる指導もしていらっしゃる。まさに教育現場の第一線でご活躍していらっしゃいます。これは素朴な疑問なのですが、学校の先生方は、教員になるまでにいじめについて学ぶ機会はあるのでしょうか?

教員になるための教員養成課程で、たとえばいじめについての授業、教育相談や生徒指導論、教育心理学などを学びます。いじめの定義、法律のことも勉強します。
ただ、こうしたいじめに関する知識を得ても、学校という現場でどれくらい活かせるかは先生ひとりひとりで違うでしょうね。

—— 知識は学んでいるけれど、実際に子どもたちを導くのはまた別の部分があるということでしょうか。

一般論ですが、教員になる人は学校に適応してきたタイプが多いんですね。あまり学校で悩んだという経験がない。いじめの問題では、なぜ、どうして、その子がそのような行動をとったのか理解しないといけません。
背景に何があるのか、本質的にその子は何を感じているのかがわかると対応しやすいのですが、なかなかそれを見抜く力を教育課程でつけるのは難しいとは思います。
問題があったときにはこまめに連絡をとるとか、子どもの思っていることをきちんと聞く、という原則的な知識や方法は学べるのですが、学ぶのと、現場で問題解決していく力量をつけるのは別です。いわば対応力ですね、いじめの問題だけに限りませんが、教師は対応力が必要です。

—— 確かに子どもはひとりひとり違うし、いじめの状況もそれぞれ違うわけですから、状況に対応する力は重要ですね。

はい。いじめの問題では、本質的な理解にもとづいて、なおかつ柔軟に対応することが大事だと思います。知識があっても、聞いていた通りとは限りません。その時にどう対応するか、どれだけ早く対応できるかが大切ですね。

保護者は一緒に学校を作る共同体

杉森先生 専門家インタビュー

—— 先生方は学校で子どもたちの指導のほかに、保護者への対応もあります。学校に対して心配している保護者もいます。2021年3月に「学校あるあるトラブル18保護者のお悩み解決します!」という本を出したのですが、保護者からの相談が多いという背景がありました。中には先生に強く訴える保護者もいますし、先生が保護者との対応に悩んでいるということはありませんか?

そうですね、恐れているという表現は少し違うかもしれませんが、先生としては保護者の対応に難しさを感じているケースはあると思います。
僕は小学校の真のカスタマー(顧客)は保護者だと思っています。小学校の段階では保護者の存在はとても大きい。そもそも保護者がいなければ子どもはいません。子どもがいなければ学校もない。学校は子どもと保護者がいてこそ、学校なのです。
ですから、学校は保護者を大切にしなくてはいけないと思っています。

—— 保護者を大切にする。いち保護者として、先生の言葉はとても心強いです!

子どもが何より大切ですが、同じく保護者の存在を重視している先生、学校もたくさんありますよ。
ただ、先生目線で生徒の様子や物事を捉えてしまい、子どもたちの不安を汲み取れないことは時々見受けられます。すると子どもは家庭で不満や不安を話し、それを聞いた親はあわてて学校に連絡を入れます。
保護者自身のことであれば、たとえ理不尽なことがあっても耐えられるかもしれない。でもわが子のこととなると耐えられないのは、とてもよくわかります。

—— 学校で何が起きているのかわからないと、親としては非常に不安です。

子どもは1日のうちのほとんどを学校で過ごします。その時間は間接的な情報しかわからないので保護者は潜在的に不安を持っています。子どもの話は、その子の視点で話していることなので必ずしもすべて事実とは限りませんが、保護者からすれば子どもが学校で嫌なことがあったと聞くと大きな不安が生じますよね。
いじめもそうですが、何かネガティブな情報が入ると保護者の平常心が失われるのは普通ですよ。むしろ、まったく気にならないほうがネグレクト的な問題があるといえるでしょう。
ですから、保護者から連絡があれば、真摯に向き合い、ご相談に対応します。ただ、先生の立場になって考えると、子どもが誤解しているケースもあります。担任の先生だけでは難しい場合には管理職や、もちろん私も対応します。

—— 不安なときは先生に連絡をしてもいいんですね。

保護者のDNAを引き継ぎ、未来を生きる存在、それが子どもです。僕は「保護者は一緒に学校生活を作っていく共同体」だと考えています。小学生だと祖父母の存在も含めてですね。ですから、親・祖父母を含めて、学校は保護者の皆さんが抱える不安に対応するのは当然のことだと思っています。

困っているときに「困っている」と子どもが相談できる環境が大切

専門家インタビュー 杉森先生

—— いじめの問題にかかわるようになって、子どもが相談できる環境があるか、相談できたとして学校がきちんと対応してくれるかが重要だと感じています。事例共有はいいと思うのですが、経験をもとに一度上手くいった方法で、全て同じように対処すればよいと考えている先生も中にはいらっしゃることが気になります。

いじめの問題に限りませんが、確かに、先生としてはこれまで対応してきた方法でうまくいった成功例があると、同じ手法にあてはめようとすることはあるかもしれません。似たようなケースでも個々の状況は違いますから、前はうまくいった方法でもあてはまらないことは往々にしてあります。
ベテランの先生ほど成功体験が多いので、ひとりで対処できるだろうと抱え込んでしまい、その間に問題が大きくなっているということは見受けられますね。

—— 私達、株式会社マモルはネットを利用したいじめ相談システムを開発しましたが、ベテランの先生に「システムは必要ない。子どもたちを見ていればいじめを発見することができる」と言われたことがありました。

隈さんとのいじめについての共同研究で、「いじめ全体の中で半分以上のいじめが実は発見できていない」と思っている先生が半数以上いることがわかりましたよね。また、「いじめを受けても相談できないでいる子どもも半数以上いる」と考えている先生も半分以上いました。
つまり、子どもたちの間にあるいじめを把握できていないという認識を持つ先生が多いのです。それがわかっていることは、学校現場としては重要ではないでしょうか
逆に、自分は子どものいじめを完全に把握していると思いこんでいる教師のほうが、僕は少し不安に感じますね。

—— そうですね。把握しきれていないと考えている先生方は、こうしたいじめの相談システムをはじめとして、いろいろな方法で子どものSOSを拾い上げるべきとおっしゃいます。ただ、ネットを利用している点で、「先生に直接話す、周囲に相談するといったコミュニケーション力が損なわれてしまう」という意見も頂いています。

コミュニケーション能力を高めることは確かに大切です。しかし、それ以上に大切なのは、早くいじめをストップさせることです。
自分から言わない、言えない“いじめ”だからといって見捨てていいわけがありません。いじめを受けて辛い思いをしている子どもを放置してはいけないのです。
困っているときに困っていると子どもが相談できることはとても大切です。
先生や学校、大人へのアプローチ方法はマモレポのようなシステムも含めて、多数あったほうがいい。もし、先生に直接相談できなかったとしても、別の道があれば、とにかく誰かに「助けてほしい」と信号を送ることができるし、あるいは誰か別の子どもが「何かヘンだぞ」と学校に注意喚起することもできますから。

—— そうですね。

ただ、生徒から先生に話せるようなコミュニケーション能力を育てるのは、僕も必要だとは思っています。
また、学校側が常に子どもの話に耳を傾け、きちんと対応する姿勢を見せることも大切です。対応がうまくいっている学校は、どの先生に相談してもきちんと話を聞いてくれて対処している。子どもたちが先生や学校を信頼して話ができる。こういう学校は問題があっても、それ以上大きくはなりづらいのです。

—— でも、実際にはなかなか先生に話せる機会がなかったり、話す勇気が持てなかったりする子もいますよね。

学校の先生が頼りにしているのは、心の声を拾い上げるアンケート、実際に対面で話を聞ける面談です。
面談でうまく話せない子どもにとって、たとえばネットを介して匿名で伝えるのであればハードルが下がり、連絡しようと思えるかもしれない。先生には直接言えなくても、とにかく学校に伝えようという気持ちになれたら最初の一歩です。
ハードルが低い、階段でいえばひとつのステップが低い、それなら踏み出せるという子どもたちもいます。だから、先程おっしゃっていた「コミュニケーション能力」という面で言えば、ネットだろうが何であろうが、伝えようと行動したことで、コミュニケーション能力が上がったのだとも言えます。
そこから、話すことへの不安を解消して、少しずつ自信をつけて、先生や学校と直接話し合えるようになればいいのですから。

—— まさに、それが私たちのめざしているものです。マモレポは言いたくても言えない子どもの手助けのひとつとして、活用して頂きたいと願っています。

・・・・・・・・・ 後編に続きます ・・・・・・・・・

※注記:2019年9月から東京学芸大学と株式会社マモルで「子どもの学校内でのトラブル発生時のSOSをインターネットで早期発見する有効性について研究」の共同研究を行う。2021年には日本教育心理学会にて、「いじめ対策に関する教員の認識および日常の取り組みについての実態把握及び相互関連性に関する検討」を発表。
関連プレスリリースはこちら
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000052335.html