マモレポインタビュー
専門家インタビュー
マモレポインタビュー
いじめの教育を受けて成長した子どもたちがきっと未来を変える(後編)

渡邊弁護士×株式会社マモル 代表 くまゆうこ

すべての子どもたちに、笑顔を。をミッションに株式会社マモルは、いじめの予兆を検知し、未然に防ぎ、いじめで悩む子がいなくなる社会をめざしています。マモル代表のくまゆうこが、識者と対談し、さまざまな角度からいじめについて深掘りしていきます。

渡邊 徹(わたなべ・とおる)

弁護士。大阪弁護士会子どもの権利委員会、日本弁護士会子どもの権利委員会に所属。大阪府スクールロイヤー等で、学校生活における子どもの権利等教育関連の多種多様な案件を取り扱った実績を有する。共著として「事例と対話で学ぶ「いじめ」の法的対応」、論文「スクールロイヤーの制度と実務」など。

スクールロイヤーとは?

—— 渡邊弁護士も担当していらっしゃるスクールロイヤーについて少しお伺いしたいと思います。

スクールロイヤーといっても、明確な定義はなく、全国の実例をみると、やっていることも実際にはそれぞれ違うのが現状です。
日弁連としては、スクールロイヤーは、学校・教育委員会などから相談を受けた場合、学校や教員の利益ではなく「子どもの最善の利益」を考えて対応するとしています。
私自身も、スクールロイヤーは子どもの人権を大切にし、子どもや保護者を第一に考えて行動することを軸としています。なので、学校・教育委員会を擁護するのではなく、たとえば現在の学校の仕組みや制度などの課題・改善点を指摘することもあります。
学校の制度が改善され、教師の働く環境がよくなり、先生に余裕がうまれれば子どもにとっても良いことですので、教師の利益というよりも結果的には、子どもの利益につながると考えているからです。

—— 保護者の視点で言うと、スクールロイヤーは学校の味方というイメージを持っている方もいるのではないでしょうか。

確かに、直接保護者から相談を受けるわけではなく、そういう面がないわけではありません。
しかし、大事なのはスクールロイヤーという肩書以前に、学校という教育現場に第三者が入っていくことではないでしょうか。閉鎖的な構造の中に、第三者が存在することで、いろいろな面でメリットはあると思います。
私は、労働環境も含めて、さまざまな問題から学校の先生をも救ってあげなければと強く思っています。それは結果、子どものためになるからです。
各学校、地域性、もちろん弁護士それぞれの考え方もありますが、スクールロイヤーの活動は、最終的には「子どもの最善の利益につながる」という点に集約されると思います。

地道な「いじめ教育」が将来を変える

—— 渡邊先生は学校を訪問し「いじめの授業」も行っているそうですね。

弁護士が学校を訪問し、いじめの授業をする活動ですね。
小学校の3年生とか4年生のクラスで、いじめについてのお話をすることがあります。私自身は、胸を張って「学校でいじめについて教えてます!」なんて言えるほど行っていませんが、他のスクールロイヤーにはいじめ予防授業を積極的に実施している弁護士もいます。私は、こうした授業の積み重ねがとても大切だと思っています。
いじめの加害者は遊び半分だったり、それが面白かったり快感だったりする。周りも笑って見ている。テレビでもいじりとかよく見かけますよね。でもテレビがすべていけないとか、いじめの原因とは思いません。
そもそもいじめのすべてを排除できるとは思えない部分はあります。でも誰かが、どこかでストップさせなくてはいけない。
大事なのは、簡単な内容であっても「いじめ」について、繰り返し子どもたちに話し、学ぶ機会を作ることです。

—— いじめの予防授業を行う学校も増えてきましたね。

私が繰り返し教えることが必要だと強調したいのは、要するに、そういう教育を受けてきた子と、受けてこなかった子では、将来的に確実に何かが違ってくるだろうと思っているからです。
こうしたいじめについて学ぶ授業というのは、以前からありましたが、いじめ防止対策推進法ができた、今から7〜8年前頃から盛んになってきたと思っています。ということは、ようやく、「いじめ」について考える機会を継続的に持って育った子どもたちが青少年から大人になりつつある。
私たち、昭和の世代は学校でそんな教育をきちんと受けていません。きついことや辛いことがあっても「それくらい耐えられなくてどうする」と怒られた。我慢や忍耐は日本人の美徳でもありますが、いじめに関しては違います。耐えられないことは耐えられないと言わないといけません。
やがて、いじめの授業を受けてきた子どもたちも親になるでしょう。その頃には、いじめがおきる風土みたいなものが変化しているのではないかと、私はそこに期待しています。

—— 弊社マモルのHPに「今、自分は高校生だが、ネット検索をしていてマモルの事を知った。いじめについて自分たちが今できることは何なのか、話したいからお時間もらえませんか」という問い合わせがきたこともあります。彼らは小学校時代からいじめについて学んできた世代ですね。

私には三人の子どもがいます。彼らの話を聞いていると、不快なことが嫌いだし、不快なことは排除されるべきだと考えている。
これは社会が成熟した証拠だと私は思っています。戦争とか飢えといったことがなくなり、もう何十年かたちました。貧困家庭等の問題はありますが、社会全体として見たときに、ただただ生きることに必死だった時代から、豊かな生活へと移り変わりました。
「気持ち、精神的なところで、快感または不快感を感じる」ことが、幸不幸へと結びつく時代になりつつあるのではないかと感じています。
弁護士は教育のプロではありません。しかし、弁護士の立場や知見、経験から、いじめという問題について子どもたちに教えられることはたくさんあると思います。
そして弁護士に限らず、いろいろな立場の方がいじめについて子どもたちに教えることができれば、地道ですが多角的ないじめの教育を行えます。
こうした教育を受けて成長した子どもが社会人になった時、たとえばパワハラとかも減るのではないか。理不尽に押さえつけるような企業風土も変わってくるのではないか。
それは、また違ったカタチで問題や課題が出てくるかもしれませんが、地道ないじめ教育の積み上げによって、何かが変わりつつあると私はそこに期待を持っています。

—— だんだん世の中が変わってきていますからね。

正直、いじめ予防授業をするといっても、この内容でいいのかな、話し方はこれでいいのかなと悩みますよ。上手な授業を行っているとも思っていない。
だけど、学校で、先生以外の立場から「いじめ」「人間関係」、弁護士の視点から「法的なこと」を一生懸命に伝えることは、子どもたちの心の中に少しずつ蓄積されて、何かしらの変化を生むと、私個人は信じています。

未来への期待「多様性の教育」「許容と寛容のこころ」が“いじめ”をなくす

—— 多様性も教育でよく取り上げられるようになりました。こうしたことも、いじめを予防する学びになるとお考えでしょうか。

ええ、私は多様性に関する教育が大きなポイントだと思っています。
先ほど「いじめの風土が変わる」とお話しましたよね。もともと、日本では、厳密にいえば違いますが、民族的に長年、単一国家であるとされており、人と違うことを排除する動きが多かったんですね。
いじめでも、とてもできる子、あるいは、とてもできない子、が攻撃されやすい面があります。それは自分たちと何かが違うから、「違う」ことを受け入れられない。
あとは、感性がとても繊細であるとか、少し他の子と違う行動をとりがちなタイプの子がいじめの標的になりやすいわけです。でも、そうした「違い」を受け入れる。多様性を許容する社会が育ち、ひとりひとりが寛容のこころを持てるようになれば、「排除するいじめ」「仲間として認めないいじめ」は減ってくるのではないでしょうか。

—— 違いを受け入れるのと同時に、その人らしさを大切にしてほしいということで「らしさを、まもる」ということを私たちはメッセージとして伝えています。

とはいえ、多民族国家のアメリカにいじめがないか?といえば、そうではありません。だから、いじめが完全になくなるとは思っていません。
それでも、いじめの土壌、風土が変化していくことで、良い方向へ動くのではないかと思っているのです。
私は人事労務の問題もよく担当します。実はセクハラ、パワハラのような、社会人になってからの労働問題は、教育とつながっているんですね。許容する風土で成長し、いじめの教育を受けてきた子どもたちが社会人となったときに、新しい風が吹くといいなと思っています。
たとえ、それでまったく別の、新しい“いじめの問題”が出てきたとしても、今よりも対応できる状況になっているのではないかと思います。

—— 「どうせいじめはなくならない」と諦めるのではなく、地道な活動で子どもたちにいじめについて学ぶ機会を作り続けることで、より良い未来が待っているんだと。
渡邊弁護士、今日はありがとうございました。

・・・・・・・・・ 前編もご覧ください ・・・・・・・・・

※注記:日弁連とは日本弁護士連合会の略称。日本の弁護士会の連合会の事。