2018年11月7日

【専門家に聞く】低年齢、悪質化する「いじめ」の現状と正しく対処する方法とは?

メディアBRAVAにて【専門家に聞く】低年齢、悪質化する「いじめ」の現状と正しく対処する方法とは?の企画協力を行いました。

メディアBRAVA:https://brava-mama.jp/

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BRAVAでも何度か記事になっている「いじめ」について。最近は低年齢化が進み、小学校低学年ではもちろん、なんと保育園や幼稚園でもいじめが起きているそう(詳しくは「保育園でいじめはある!?我が子が体験した「いじめ」の内容と「対処法」とは?」の記事を参照)。

もし、わが子が被害者・加害者・傍観者に関わらず、何かのサインを出した時に「子ども同士の他愛もないケンカでしょ」と決めつけてしまわない様、今、世の中で起こっているいじめの現状を知っておく必要があると思います。

どういういじめが起きていて、そこにはどんな問題があり、大人はどう対処すれば良いのか…。今回は実際に娘さんと共にいじめの被害にあい、ご自身のPTSD経験からメンタルサポート・ジャパンを立ち上げられた百世安里さんのお話を前後編でお伝えします。小学低学年のお母さんにはぜひ読んで頂きたいです。

過去最高件数のいじめ、低年齢化と悪質化しているって本当?

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編集部:まず、今の日本におけるいじめの現状について教えてください。

百世安里さん(以下、敬称略): 2016年度、小学校のいじめの認知件数は23万7,921件で過去最高件数、特に低学年がもっとも多いとの結果です。(文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校生徒指導上の諸問題に関する調査」より)

認知件数自体は報告件数なので実数とは異なりますが、低年齢化・悪質化していることは確かです。中高生になると高額のお金を巻き上げたり、被害者に無理やり売春をさせたり…いじめの実態はもう犯罪レベルに。こういった犯罪が学校という “隠れみの” の中で放置されている状態なのです。

編集部:低年齢化と言いましても、正直、小1や小2でとは考えられませんでした…。

百世:大人は「まさか、そんな低学年から」と認めにくいものですよね。うちの娘は小1の頃「しね」と書かれた手紙を机に入れられたことがあります。

編集部:・・・。言葉を失いますね…。本当に恐ろしいです。そもそもいじめかそうでないかの判断は、どうお考えですか?

百世:いじめかどうかは、次の3つのポイントが判断基準になるでしょう。

判断基準1.加害者の方が多い(集団性)
判断基準2.ストーカー的(継続性・長期的)
判断基準3.隠蔽・ごまかし

これらは、以前の記事「保育園でいじめはある!」とも共通しています。ドラえもんのジャイアンは、いわゆる乱暴な子ですよね。
いじめというのは、加害者が集団で被害者を孤立させて(判断基準1)、しつこく繰り返し(判断基準2)攻撃を続けます。また、バレても言い訳やウソなどで正当化し(判断基準3)、エスカレートしてしまいます。

編集部:先ほどの文部科学省では、いじめの定義として『個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は、表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うものとする』とありますが、これについてはどうでしょうか?

百世:一歩社会に出たら、”殴る行為”自体が ”暴力” で、”被害者が嫌と感じるかどうか”で”暴力”だと決まるわけではないですよね。だって感じ方が判断基準になるなら、被害者を脅して嫌だと言えなくすれば、暴力ではなくなってしまう可能性も。“いじめ”では、それがまかり通っているんです。

『被害者がどう感じたかで、いじめ』だとすると、『被害者を黙らせれば』いじめではなくなってしまう恐れや、『被害者が弱いから』と、被害者側の問題にされがちです。それはおかしいですよね。犯罪は、暴力にしろ盗みにしろ『加害者が何をしたか』という行為自体が判断基準です。
いじめも本来、加害者の問題なんですよ。人に嫌がらせをしたり、集団リンチで暴力をふるったり、膨大な中傷メールを送ったり、社会に出ればどれも立派な犯罪ですから。

いじめの種類や男女差ってどう出るの?

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編集部:男女や年齢によっていじめの内容は異なると思いますが、それぞれ特徴を教えてください。

百世:女子の場合はコミュニケーション系のいじめが特徴です。女子はグループを作りがちですし、いじめ方が巧妙で陰湿ですね。
例えば、小学生低学年の女子の例で、休日にみんなで遊びに行く計画をして、わざと一人にだけ違う待ち合わせ場所を伝えて、一人ぼっちにする。一人のけものにされたことが、恥ずかしくて親にも言えない…とか。男子に多いのは暴力ですね。これが集団でエスカレートしてくると本当に危険です。

編集部:わが子も小2男子ですが、最近、なんとなく調子付いてる傾向はあります。ふざけた延長でやりすぎたとか、後先考えずに、調子に乗って危ないことをやってしまったとか。

百世:さきほどの判断基準にあげましたように、単発の場合はいじめと考えなくていいでしょう。いじめっ子の場合は、ズルいですから。”試し行動”で少しずつ周囲を加害に慣らしていく。ふざけているフリをしたり、注意するほどでもないかなってラインを狙ったりしてくる。他の子が黙っているのか、先生に言いつけるのか。先生もどこまで見ているか、どこまで言ってくるかを見ながら、加害の範囲を広げて続けていくんです。

編集部:それなら被害が小さな内に注意した方が良いのですね…!

百世:そうです。早期対処が大切です。とはいえ、実態がわかりにくいものもあります。たとえば、女の子が男の子を使って襲わせた実例です。「?ちゃんがあなたの悪口言っていたよ」と吹き込んで、男の子を怒らせて襲わせる。

このようなケースはやり方が巧妙ですよね。自分の手は汚さないで、人をだまして暴力をふるわせる、これが小学校低学年の子なのですから!大人顔負けですよ。

編集部:自分がされたら嫌だ、とか怖い…とか、そういう想像力が現代の子は欠けているのでしょうか?

百世:加害者タイプの子はわからないのではなく、逆に「想像できるからやる」「意図的に」やっています。相手が傷つくのを楽しんでいて、その喜びを心理的報酬として得ているわけです。

たとえば犯罪者の過去って、猫を殺したりするようなところから、どんどんエスカレートしていくじゃないですか。加害することで、自己優越感や満足感を得る。だから、やめられなくなる。万引き犯や麻薬も、悪いとわかっていて止められない。いじめも同じで、依存症なんです。

また、心理学者のレオナード・エロン博士(アメリカ)やダン・オルウェーズ博士(ノルウェー)の研究では、いじめっ子は将来「DVや虐待を行いやすく」「犯罪者になる確率が6倍」というデータも出ています。(参考動画はこちらから))

編集部:恐ろしすぎます…。

いじめがエスカレートするタイミングって?

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編集部:いじめのステップがあると伺いましたが、それについて教えてください。

百世:加害に対して「周囲がどれだけ容認するか」が、いじめが成立するカギです。いじめを初期・中期・末期でみると、クラスの1/3を超えると一気に傍観者・加担者が増えて、末期へとなだれこみます。こうなるとクラス崩壊で、手がつけられない。できる限り最初のうちに、いじめの芽を摘むことが大切なのです。

編集部:傍観者も含めて、クラス全員が加担してくるのでしょうか?

百世:一人だけ背くと、自分がターゲットにされる怖さから、加担にまわってしまうんですね。自分の安全を優先しても、結局クラスが荒れてしまえば、遅かれ早かれターゲットにされる危険は避けられません。だから、小さな加害を放置しちゃダメなんです。

編集部:とはいえ、助けると次のターゲットにされそうですし。とても子どもに「助けなさい」とは言いにくいです。

百世:もちろん、加害者は人数が多い上に、嘘もお手の物なので、面と向かって止めるのは危険でしょう。「先生を呼びに行く」「匿名の手紙を、学校や教育委員会に出す」「いじめサイトで相談してみる」「被害者に小さな声かけをする」など、できることはいろいろあります。どう行動すればよいかを、こちらの動画にまとめてありますのでご覧ください(動画はこちらから)

編集部:いじめによって、子どもたちにどんな影響がありますか?

百世:被害者が心の傷で苦しめられるのはもちろんです。
ところが傍観者も、理不尽な目にあっている友達を助けられない・放置するしかないのですから、自分に対する信頼感が下がります。良心が痛みつつも何もできない、無力感を感じてしまう。自己肯定感が下がりますし、そうなると社会に出ても力を発揮しにくくなります。

そして加害者は加害依存が手放せなくなり、素行障害や反社会性、ネット炎上や嫌がらせ、DVや虐待をしたりで幸せな家庭を築きにくい、犯罪者になる確率は6倍と、社会的に問題のある人間になってしまう可能性があります。

編集部:どうして傍観者で終わってしまうのでしょうか?

百世:親が長い物には巻かれろ、的なタイプであれば、子どもも傍観者になりやすいというデータ(参考/『いじめを許す心理』正高信男著より)があります。実はいじめが発生していないクラスにも加害者タイプの子は一定の割合、1割弱ぐらいはいるんです。

もちろん加害者はいじめの一番の原因ですが、なにがいじめの成立を左右するかといえば、加害を容認する場があるかどうか。どれだけ傍観者・加担者がいるかで、加害者グループが勢いづいてくる。つまり同調圧力で拡大する、「パワーゲーム」なのです。

編集部:親のスタンスが反映されてくるなんて、子どもたちは親のそういう反応を知らず知らずのうちに嗅ぎ取っているのでしょうね。

加害者側の親、先生、学校…大人たちの利害が絡む恐ろしさ

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編集部:百世さんのご経験から、加害者側のご家庭について感じられることは?

百世:子どもは親の写し鏡なので、親がモンスターな場合がやはり多いです。特に競争意識が強い人は多いですね。「ほかの子を押しのけてでも一番にならないと、社会では勝っていけない」このような意識がある人に加害者家庭は多いです。

編集部:自分の子どもがいじめをすることに、罪悪感はないのでしょうか?

百世:それどころか自分の子の身を守るために、反撃する場合もあります。以前、娘がいじめられ、暴力を振るわれていた時「痛い!」と声をあげたら、加害者側から「痛いって言われて傷ついた」と自らが被害者かのように訴えてきました。暴力をふるうことへの反省も謝罪も一切なしです。

編集部:え? 意味がわかりません…。それに、もはや子どもの話ではなくなっている。

百世:ええ、大人がいじめを作ってる、蔓延させている面も大きいんです。なぜ学校でいじめが蔓延するかというと、いじめを隠蔽する学校があるからです。

たとえば公立なら、いじめがあったとなると校長自身の評価や退職金が下がってしまうわけです。私立なら学校の評判が落ちると入学者も減ってしまい、経営が困難になる。つまり、いじめがあると困るわけですよ、学校は。だから、”なかったこと” にするために、学校ぐるみで生徒に口止めしたり、証拠を隠したり、アンケートを捨てたりするわけです。

編集部;ひとりの大人として、社会人として、良心の呵責とかはないのでしょうか?

百世:実際に対処したい先生がいたとしても、「学校が対処しない」と決めたら、もうそれ以上は動けないですし、ひどい場合はよそに異動させられるケースもあります。対処をすると、いじめがあったと認めることになりますから。

編集部:子どものいじめの話なのに大人がバックグラウンドについて加担しているなんて…怖さと憤りを覚えます。

 

百世さんご自身の経験があるので、ニュースだけの世界だけじゃない、人ごとじゃない、という問題意識が一層深まりました。
小さなうちに芽は摘んでおいて、エスカレートする前になんとしてでも食い止める、とにかく、最初が肝心で、結果を大きく変えることになると思います。あといじめは子ども社会の闇ではなく、大人社会の闇である、とつくづく思いました。

大人である私たちの生き方や考え方、スタンスを問われている気がしてなりません。後半は実際にいじめにあっている子になんて声をかけたら良いのか、学校への対処はどうしたら良いのか、いじめのサインの見抜き方など、具体的な対処法をお伺いしたいと思います。

<専門家PROFILE>
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メンタルサポート・ジャパン 代表理事 百世安里さん

いじめと心の傷(トラウマ)の専門家。著書に『へこまない思考法』『社会起業家スタートブック』『家事する男の作り方』『働くママでよかった』などがある。子どもと共にいじめ被害にあい、裁判勝訴。日本を代表する精神科医・斉藤学先生のもとで、PTSD診断を受けて5年間治療、心理療法知識を深める。自身のPTSD経験をもとに2009年より、演劇メソッドを使った心のケア「トラウマ解凍ワーク」をスタートさせた。日本メンタルヘルス協会基礎カウンセラー。「悩み辞典」相談員。

メンタルサポート・ジャパンHP はこちらから。
悩み辞典はこちらから。
百世さんブログはこちらから。
「いじめ根絶!Youtube動画プロジェクト」傍観者編はこちらから。
「いじめ根絶!Youtube動画プロジェクト」加害者編はこちらから。

ライター:BRAVA編集部

【企画協力】
いじめのサインを見逃さない こどもをマモルサービス
株式会社マモル

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